10月4日、自民党は新たな総裁を選び、党総裁=首相という「自動昇格」の慣習が再び注目を浴びることになる。今年の総裁選は、単なる党内人事では済まされない、国政の行方を左右する重大な政治イベントである。
なぜなら、現政権が国会で安定多数を欠き、「少数与党」の状況下で政策遂行に苦しんできたからだ。参議院選、衆議院について与党が過半数を失ったことは、自党内の結束だけでなく、野党・諸派との駆け引きをも避けられない現実を浮き彫りにした。ウィキペディア+2ピクテ+2
このような状況での総裁選は、単なる能力や魅力、派閥の勢力線を越えた、「どうやって政権を安定させるか」「どういう連立・協調モデルを描くか」が争点になる。加えて、国際環境の緊張、円安・インフレ、財政制約という経済的制約も候補者に重くのしかかる。
自民党総裁選は、国会議員票と全国党員票とを併せて決する方式である。議員票はそのまま1票ずつ、党員票は都道府県の割り振りに応じて配分され、議員票と同数の配点をもつ。つまり、「議員重視」「党員重視」のバランスをいかに取るかが鍵だ。
また、過半数を取る候補がいなければ上位2名で決選投票を行う。ウィキペディア+2自由民主党+2
過去の総裁選では、議員票で絶対優位を取る候補が党員票で追い上げられる構図も見られた。今回も、若手・中堅勢力 vs 党基盤重視派という構図が浮き彫りになっており、票割れ・駆け引きが激しくなることが予想される。
さらに注目されるのは、各候補が「選挙後の野党との協調戦略」をいかに打ち出すかである。現在、自公与党だけでは衆院で過半数を確保できず、政策・法案を通すためには他党の協力が不可欠だ。したがって、総裁候補はいずれも党外との関係構築や「大連立・連携の可能性」について何らかのメッセージを示さざるを得ない。NRI+1
たとえば、林芳正氏であれば立憲民主党との協調性、改革路線を志向する候補であれば維新との接点という構図が取り沙汰されている。NRI+1
今回の総裁選には複数の有力候補が立候補しており、その主張・支持基盤も多様だ。主な争点、そして論点を以下のように整理できる。
代表的な候補としては、高市早苗、小泉進次郎、林芳正などが名前を挙げられており、ほかにも小林鷹之、茂木敏充といった人物が支持を競っている。自由民主党+2FNN+2
高市氏は保守強硬派・国家主義色が強く出る政治家として知られ、強い方向性を打ち出すことを得意とする。一方で、小泉氏は比較的柔軟なイメージを持ち、改革・若手志向の象徴となる可能性を帯びている。林氏は経験・安定感を重視する層の期待を背負う。調整型の中道勢力とも見られやすい。
この「多様性」が、総裁戦を単なるパワーゲームではなく、将来の政策対比を示す場にもしている。
最も重い論点のひとつが、財政政策・金融政策の舵取りだ。物価高・インフレ圧力・円安などが現実問題として顕在化しており、どこまで積極的に「支出拡大」「減税」に踏み込むかは、政策の正当性・持続可能性と直結する。
たとえば高市氏は赤字国債をやむを得ない手段と位置づけ、積極財政色を前面に出す可能性を排除していない。Reuters Japan+1 ただし、すべての候補が無条件の赤字拡大を唱えているわけではなく、補正予算や制度改革を通じた財源確保を重視する主張も散見される。Reuters Japan+1
金融政策との整合性、具体的には日銀との連携や利上げ・利下げのタイミングをどう扱うかも重要だ。概して、政府と日銀との“共同戦線”を構築したいという構えが強まっており、小泉氏などは「政府・日銀の政策を車の両輪のように機能させる」旨の発言もしている。Reuters+1
だが、金融市場は総裁選の結果にも敏感に反応する。円安が進行すれば輸入物価の上昇圧力が強まり、逆に過度な利上げ志向が出れば景気に逆風を及ぼす。総裁選後の初動(予算策定、補正対応、日銀対応など)は、国内外から細く見られることになる。
先に触れた通り、今や自民+公明のみでは衆院過半数を取れない。この現実が、総裁選での各陣営にとって「野党との関係構築」を無視できない要件となった。
一部の候補は、政策領域での連携をちらつかせることで柔軟性をアピールしている。たとえば、小泉氏は自民との関係性の良い維新との協力可能性を示唆する報道もある。NRI+1 林氏も、比較的政策距離の近さから立憲民主党との接点を探る可能性が指摘される。NRI
ただし、「大連立」「協調型連立」の実現には、政策のかみ合わせやマニフェスト調整、信頼構築など多くのハードルがある。国民の目線からすれば、「協力したくない相手」との接点を過度に強調することは支持基盤を揺るがすリスクもはらむ。ゆえに、総裁選という段階では、あくまでも“含み”を持たせた方針や可能性提示にとどめるケースが多くなるだろう。
総裁選というのは、新しいリーダーを選ぶ場であると同時に、「党の方向性」を示す試金石でもある。そしてその影響は、まずマーケット、外交、安全保障、地方自治政策など幅広く波及する。
実際、総裁選前から為替市場では円安・ドル高が進行しており、1ドル=149円台を試す動きも見える。Reuters Japan これは、政治政策の不透明感や、金融政策転換への期待・警戒が混ざった反応だ。
外交・安全保障においても、東アジアを取り巻く緊張が続く中で、新体制に求められる役割は大きい。日米同盟維持、台湾・中国対応、北朝鮮圧力など、安全保障課題は後手に回せない。総裁(=首相)には、国内重視と外交対応とのアレンジが厳しく求められる。
地方切り込みや「地域政策強化」、地方創生の再構築も総裁候補にとってのアピールポイントになっている。与党内での支持回り・地元基盤とのつながりが票に直結するため、地方目線の公約・布石は軽視できない。
また、総裁選後には“ハネムーン効果(国家元首交代直後の人気上昇)”のような現象も起こりやすい。ただし、それを持続可能な支持基盤に変えるには、政策実行力と調整力が不可欠だ。
総裁選が終われば、まず10月初旬には国会で首班指名が行われる。その後、新内閣が発足し、すぐさま予算・補正対応、次年度予算の編成作業に着手することになる。与野党・他党との協調姿勢、そして内部結束の強化が焦点となるだろう。
勝利者が高市氏であれば、保守強硬色の政策やナショナリズム的な政策が前面に出る可能性があり、外交・安全保障面で緊張をはらむ場面も多くなるかもしれない。一方、小泉氏が勝てば、比較的バランスをとる方向を意図しつつも、野党との連携や若手重視路線で変化を志向する可能性がある。林氏が総裁となれば、調整型・中道色強めの政策が選択肢として見られるだろう。
ただし、いずれの候補であっても、政策実行能力、予算運営の巧妙さ、国民・野党との合意形成力が試される。総裁選勝利はスタートに過ぎず、そこから「政権としての安定感」と「支持の質」を如何に構築するかが本番である。
そして、もし政策運営が迷走したり、支持を失えば、総裁・首相の交替や再選挙といった政変も現実味を帯びる。少数与党という構造条件がそれを容易にしてしまうからだ。
終わりに
総裁選は、党内の派閥抗争や人事の舞台と思われがちだが、現下の日本政治においては、国民が期待する「首相選び」であり、「政策選択の分岐点」でもある。制度構造、世論の動向、外交・経済圧力が候補者を縛るなかで、「リーダーとしての覚悟」「調整力」「将来構想」が問われる選挙となるだろう。
私は、総裁選の帰趨が、コロナ後・ポスト国際変動期における日本の政治スタンスの試金石になると考える。むしろ「誰が勝つか」よりも、「どういう方向性で国を動かすか」を見定める視座が求められている。
もしよければ、このコラムをあなた向けにアレンジ(特定派閥視点、地方目線、経済政策重視など)もできますが、どうしますか?