「女王たちの春、東京に咲く ― ヴィクトリアマイルの魅力と歴史を紐解く」

女王たちが咲き誇る春の府中――ヴィクトリアマイルのすべて

5月、春競馬の中心舞台となる東京競馬場に華やかな女王たちが集う。牝馬限定のマイルGⅠ「ヴィクトリアマイル」は、2006年に創設された比較的新しいGⅠでありながら、その存在感は年々増している。今回はこのレースの歴史、特徴、そしてその奥深い魅力に迫ってみたい。

■ ヴィクトリアマイルとは

ヴィクトリアマイルは毎年5月中旬、東京競馬場の芝1600mで行われる4歳以上の牝馬限定GⅠレースだ。創設の目的は、エリザベス女王杯が秋に移行したことで手薄になった古馬牝馬路線の春の大一番を設けることだった。マイルという距離設定も絶妙で、短距離から中距離まで幅広い適性を持つ牝馬たちが集結し、ハイレベルな戦いを繰り広げている。

牝馬限定戦ながら、マイルGⅠということもあり、安田記念やスプリンターズステークスといった牡馬混合戦線で通用するような実力馬も数多く出走してくるのがこのレースの特徴だ。

■ 歴代女王の栄光

過去の勝ち馬を見れば、このレースの価値が自然と浮かび上がってくる。たとえば、2009年のウオッカ。日本競馬史に名を刻む女傑が、東京の長い直線を力強く駆け抜けたあのレースは今なお語り草だ。ウオッカは牝馬でありながらダービーを制し、牡馬相手にも一歩も引かない名馬だった。

さらに2010年代に入ると、ヴィルシーナやストレイトガール、アーモンドアイといった名牝たちがこのレースを舞台に輝いた。特に2019年のノームコアがマークした1分30秒5という日本レコードは今なお破られておらず、マイル戦としてのスピードの極地を示した一戦だった。

近年では、2021年のグランアレグリアの圧勝が記憶に新しい。スプリントからマイル、さらには中距離まで対応できる万能性を武器に、春の女王に輝いた姿は「牝馬限定」という枠を超えた強さの象徴だった。

■ 東京芝1600mの舞台設定

ヴィクトリアマイルが行われる東京芝1600mは、競馬場随一の直線長(約525m)を誇り、力のある馬が最後にその真価を問われる舞台だ。スタート直後に緩やかな上り坂があり、序盤のペース配分が結果に大きく影響する。ペースが速くなれば差し馬が有利になり、スローならば先行馬の粘り込みも十分にある。

特に牝馬の場合、気性の難しさも相まって、展開の影響が大きく出やすい。そのため、実力だけでなく精神面の成熟や騎手の腕も大きく問われるレースなのだ。

■ 牝馬限定戦の奥深さ

牝馬限定戦というと、牡馬混合戦に比べて「格が落ちる」と見られがちだった時期もあった。しかし、近年は牝馬のレベル向上が著しく、むしろ牝馬が牡馬を凌駕する場面すら多くなっている。アーモンドアイやジェンティルドンナ、リスグラシューといった歴代の名牝たちは、いずれも牡馬相手のGⅠでも勝利している。

そうした実力派牝馬が集まるヴィクトリアマイルは、単なる牝馬限定GⅠではなく、「最強牝馬決定戦」とも言うべきレースに進化している。

また、牝馬は年齢を重ねるとともに成績が安定し、ベテラン勢が若手を退けるシーンも多く見られる。単なるスピードだけでなく、経験や騎手とのコンビネーションも重要な要素となるため、予想のしがいがあるレースでもある。

■ 注目の今後と展望

ヴィクトリアマイルは、今や春のマイル戦線を彩る一大イベントとなった。安田記念や宝塚記念へとつながる意味でも、ここでの勝利がその後のローテーションを大きく左右する。

さらに、近年は海外遠征を視野に入れる陣営も増えており、ヴィクトリアマイルで好走した牝馬が、秋にはブリーダーズカップや香港国際競走など世界の大舞台に挑むケースも増えている。国内外で通用する牝馬の発掘という意味でも、このレースの重要性は年々高まっているのだ。

■ 終わりに

ヴィクトリアマイルは、単なる春のGⅠにとどまらず、「女王たちが咲き誇る舞台」として、競馬ファンに特別な高揚感を与えてくれる。桜の季節を過ぎ、新緑に包まれる東京競馬場で繰り広げられるスピードと気迫の競演。今年もまた、どんな名牝が誕生するのか。目が離せない春が、すぐそこまで来ている。